《名前》を世界に一枚だけの人生に寄り添うアート作品へ アーティスト・絵本作家 Boojilさん 《名前》を世界に一枚だけの人生に寄り添うアート作品へ アーティスト・絵本作家 Boojilさん

産まれて初めて贈られるプレゼントである《名前》。
由来や込められた想いとともに名前を
ネームアート*(名前の絵)に仕上げる
「ONLY ONE NAME」というプロジェクトを手掛ける
アーティスト・Boojil(ブージル)さんに
お話をうかがいました。

*ネームアートとは、名前の意味や由来、エピソードから
モチーフをデザインし視覚的に楽しむことのできる名前のアート作品。
自らのアイディアとオリジナルのスタイルで
Boojilさんが2009年からスタートしました。

絵を描くことが大好きな女の子が絵を仕事にするまで

名前に込められた意味や想いを絵で伝えたい、日本でもアートや絵を飾ることをもっと身近に感じてほしいと、2009年に「ONLY ONE NAME」をスタートしたBoojil(ブージル)さん。これまで3,000を超えるネームアートを描いてきました。絵を仕事にするまで、どのような道のりを歩まれたのでしょうか。「小さいときから絵を描くことが好きで、小学生の頃は授業中ノートに絵を描いたり(笑)、漫画クラブにも入っていました。中学のとき、ファッションに興味を持ち、高校卒業後はスタイリストを目指し専門学校に入りました。学校はみんながおしゃれで華やかな世界。一方で “あの人はおしゃれだから素敵!”のように、まずは外見から人を判断する基準に少し違和感を覚えることがありました」

カンボジア~タイを巡って見えた現実

「プロのスタイリストの仕事の現場に触れる機会もありましたが、たまたまその現場には殺伐とした空気が流れていて、自分が飛び込んでいきたい世界と思えなくて。“私は本当にファッションの仕事に就きたいんだろうか…”と悩んでいた19歳の夏、海外旅行にでかけました。バックパッカーの旅で、カンボジアとタイの国境を徒歩で越えたのですが、当時の国境付近は悲惨な状況で。貧困層の多くの子どもたちが路上で生活を余儀なくされていました。大人も子どもも生きるために精一杯、キレイな服を着ている人なんて一人もいなかったんです。先進国なら好きな服が買えたりキレイな装いができるけれど、それは万国共通ではない。自分が目指していたものが、いろんな人に楽しんでもらえるものではないんだ、という現実に初めて気付かされた旅でした」

絵がとびきりのコミュニケーションツールに 絵がとびきりのコミュニケーションツールに

「当時は英語が話せなかったのですが、現地の子どもたちや大人と地面に棒で絵を描いてコミュニケーションを取ることができたんです。言葉が通じない状況でも絵がコミュニケーションツールになるんだ!しかも絵を描いたらとても喜んでもらえて、自分も嬉しかった。この経験が私のルーツになっていると思っています。この出来事をきっかけに“絵の仕事がしたい”と思うようになりました。絵を描くこと、それを人に見せることを仕事にしたいと。ただ、絵の学校に通ったわけでも師匠がいるわけでもなかったので、どうしたら仕事にできるかわからなくて。そこでフリーマーケットに作品を並べて、たくさんの人に見てもらおうと思いつきました」

はじめての仕事で感じた手ごたえ

「どんな反応があるのか緊張していましたが、はじめてのフリーマーケットで、仕事の依頼が舞い込んだんです。20歳の頃でした。劇団の方が公演のポスターを描いてみないかと依頼してくださって。初めての経験で不安もありましたが、すぐお引き受けしました。これを繰り返していけば、自分も絵を仕事にしていけるかもしれないと感じた経験でした。その後もフリーマーケットに作品を並べ続け、他にもカフェなどで展示をさせてもらったり。とにかく“自分は絵を描いています”ということを出会った人に必ず言うようにしていました。すると興味がある人は話を聞いてくれる。人と人とご縁が広がり、次第に仕事になっていきました」

あなたから湧き出るものを描いて!

「その後、『おかっぱちゃん旅に出る』というイラストエッセーを出し、仕事が少しずつ増えてきた20代前半の頃、歌手である由紀さおりさんの40周年記念アルバムのジャケットの絵を描いてほしいという依頼をいただきました。しかも“こういう絵を描いて”ではなく、“あなたが自分から湧き出るものを描いて”というご依頼で。型にはめず自由に描くこと、描く人から湧き出るものを描くのが一番いいとおっしゃってくださったんです。当時22歳だった私に“あなたの好きに描いて”と言ってくださって。ものすごくかっこいい方だなぁと感じました。ずっと忘れられない印象的なお仕事です。絵の仕事一本でやっていこうと自信にもつながりました。そして、絵を仕事にする以上、自分だけのオリジナルの絵を描くこと、誰とも重ならない絵を描くことが大事だと、改めて感じました」

自分の名前を視覚化したら…

その後、イラストレーターとして世界的な企業とコラボを重ね、2011年には著書『おかっぱちゃん旅に出る』がNHK Eテレでアニメ化、2018年には絵本作家としてもデビュー。練馬区にアトリエ兼イベントスペース「東京おかっぱちゃんハウス」をオープンし、イベント企画などにも積極的に携わるなど大活躍な上に、元気いっぱいの二人の男の子のお母さんでもあるBoojilさん。忙しい日々が想像にかたくありませんが、約16年前にスタートした『ONLY ONE NAME』に寄せる想いとエネルギーもたっぷり!です。「実は自分の名前に少しコンプレックスがあったのですが、絵で表現してみたら名前が好きになったという経験があって。そこで“絵で名前を描きますよ”という企画をイベントでやってみたところ多くの方に興味を持っていただき、『ONLY ONE NAME』がスタートしました」

写真:前田 景

大切なタイミングでの、大事なオーダー

「お子様の誕生や成人の記念、98歳のおばあ様へのお孫さんからのプレゼントなど、これまで3,000を超えるお名前を描いてきました。大切なプレゼントに選んでいただくことが多くて、大事なオーダーを受けて仕事をしていると実感しています。名前の意味や由来、エピソードなどしっかりとヒアリングしたうえで、その人のために描くネームアートなので、同じ名前でも絵柄は必ず変わってきます。話をたくさんうかがって名前を描くので、描き終えてからも“あの方、今もお元気かな”など思いをはせることも度々です」Boojilさんが描くネームアートは、その人の人生にずっと寄り添ってくれるかけがえのない存在へとなっていくのでしょう。

写真:前田 景

いまにつながっている、19歳夏の経験

『ONLY ONE NAME』では、オプションのラッピングをオーダーすると、ラッピングの収益の一部が国連WFP(国際連合世界食糧計画)に寄付されます。Boojilさんのこれまでの作品が散りばめられたラッピングペーパーやカラフルなリボンは、開封するときのワクワク感をさらに増してくれます!「絵を誰かにプレゼントすることが寄付につながり、他の人の喜びにもつながるというサイクルを導入しました。アジアを旅して、生活に困窮するたくさんの子どもたちと接してから絵を描く活動が始まったので、絵で社会貢献ができないかとずっと思っていましたが、ONLY ONE NAMEを始めて叶えることができました。これからもこういう感覚を持ち続けながら活動していきたいと思っています」

大好きな絵を仕事にするがゆえの厳しさもたくさん経験されてきたはずのBoojilさんですが、
明るい笑顔で、自由にのびのびと描くことの楽しさ、絵を飾って眺めることのすばらしさを語ってくれました。
Boojilさんのお話をうかがうと“絵を描きたい”“大切な人の人生に寄り添うような絵を贈りたい”という思いがむくむくとわいてきました。
取材中に気付いたのですが、Boojilさんはお話上手なうえに、聞き上手!
そのことを伝えると「名前についての話をたくさん聞きだすので、自然と聞き上手になったのかも」とニコリ。
『ONLY ONE NAME』のWEBからの注文は、毎月1日にオーダーをスタート。
すべて手描きのため点数に限りがあります。
Boojilさんと直接お話しながら注文できるオーダー会も各地の商業施設やアトリエで不定期で開催されます。
ウェブサイトSNSで最新情報をチェックしてみてください。

PROFILE

写真:前田 景
Boojilさん アーティスト、絵本作家 Boojilさん アーティスト、絵本作家

世界各国をひとりで旅した経験から生まれたカラフルでピースフルな作風で、テレビ番組のアートワークやプロダクト、広告、雑誌などの媒体を中心にイラストレーションを手がける。

SHOP

オンラインショップでもお買い求めいただけます。 SANGI SHOP